パワエレ技術者が解説する「ワイヤレス給電の基礎」
~ システムの設計開発で必ず役立つ基礎理論 ~

弊社の旧Webサイトで公開していた技術解説(2013年5月公開)を、一部改定してこちらへ移設しました。 (2016年8月)


 

1.ワイヤレス給電の分類

最初に、ワイヤレス給電の方式の分類をしておきます。

表1に示した分類表のように、ワイヤレス給電の方式は、「誘導結合方式」と「電磁波放射方式」の2つに分類されます。

この分類は、エネルギーの伝送空間モデルが「集中定数回路モデル」か「分布定数回路モデル」かの違いです。

電磁波放射方式は、エネルギーを持った電磁波が空間を波動として伝搬するものであり、理論解析には空間座標を考慮した波動方程式が必要となります。
この波動方程式はパワエレ技術では説明できません。

その一方で、誘導結合方式は、電界(静電誘導)や磁界(電磁誘導)によって空間を結合し、その間に起こる誘導現象を利用して電力を伝送する方法であり、パワエレ技術の範疇で説明ができます。

つまり、「誘導結合方式」のワイヤレス給電はパワエレ技術で実現でき、このサイトでは「誘導結合方式」に限定して解説します。

 

表1 ワイヤレス給電の分類表

誘導結合方式 電磁波放射方式
基本原理 電磁誘導や静電誘導で空間を結合してエネルギーを伝送する。 送信器(アンテナ)から放射した電磁波を受信器(アンテナ)で受け取ることでエネルギーを伝送する。
伝送空間の
回路モデル
集中定数回路モデル 分布定数回路モデル
エネルギー消費 負荷を接続しなければエネルギー消費は無い。 負荷の有無に関係なく送信器はエネルギーを空間へ放出する。
相当する
高周波加熱
IHクッキングヒータ
周波数:20kHz~100kHz
電子レンジ
周波数:2.45GHz
詳細分類 電磁誘導(磁界結合)方式と静電誘導(電界結合)方式に分類される。 マイクロ波方式、レーザー方式など電磁波の波長(周波数)で分類される。

 

2.磁気系と電気系の統合回路

電磁誘導現象を利用したワイヤレス給電の回路は電気系と磁気系を分離して議論される場合が多いようですが、集中定数回路モデルで表される誘導結合方式は、電気系と磁気系とを一体の系として扱うことができます。
言い方を変えると、電界や磁界で結合した系全体の特性は、一体の集中定数回路網として理論的に解くことができるということです。

具体的には、電磁誘導方式のワイヤレス給電システムの構成要素を、「電源」「1次側コイル」「ギャップ(伝送経路)」「2次側コイル」「負荷」として、下図のような統合回路にモデル化できます。

kihonkairo

図1 統合回路モデル

図中の各記号の定義を以下に示します。

【電源】
  ● 出力電圧:v1 [V]
  ● 出力電流:i1  [A]

【1次側コイルおよび2次側コイル】
  ● 巻数:N1N2 [Turn]
  ● 巻線抵抗:R1R2 [Ω]
  ● 漏れ磁束経路(パス)のパーミアンス:Ap1Ap2 [H]
  ● 起磁力:Fm1Fm2 [A]
  ● コイル磁束:φw1φw2 [Wb]
  ● 漏れ磁束:φp1φp2 [Wb]

【ギャップ(伝送経路)】
  ● ギャップのパーミアンス:AM [H]
  ● ギャップの起磁力:Fmg [A]
  ● ギャップを通過する磁束:φg [Wb]

【負荷】
  ● 負荷抵抗:RZ [Ω]
  ● 負荷電圧(受電電圧):v2 [V]
  ● 負荷電流:iL [Ω]

なお、パーミアンス(permeance)は、磁路(磁束経路)における磁気抵抗の逆数であり次式のように定義されます。

    パーミアンス=(透磁率×磁路断面積)/磁路長   (単位はインダクタンスと同じ H

次に、このような統合回路としてモデル化された系を理論的に解析していきます。
 

3.ブロック図と伝達関数

3.1 電磁誘導の基本回路(抵抗負荷)

電気系と磁気系のつながりは、電磁気学の基礎的な次の3つの式で表されます。

  ・起磁力=巻数×電流
  ・電圧=巻数×磁束の時間微分
  ・磁束=パーミアンス×起磁力

さらに、起磁力と磁束に対して、磁気系におけるキルヒホッフの法則に相当する式を適用することで、図1の統合回路モデルの回路方程式は次のような連立方程式となります。

t領域方程式



これをラプラス変換してs領域の式で表すと次式のようになります。
(小文字のt領域関数は、ラプラス変換によって、大文字のs領域関数に変換されます。)
 
s領域方程式

このs領域の連立方程式を、ブロック図で表したものが次の図2です。

ブロック図

図2 ブロック図

次に、このブロック図または連立方程式から伝達関数を求めますが、その前にもう1つ式を追加しておきます。

コイル単体(結合なしの場合)の自己インダクタンスに寄与するパーミアンスとして、を次式のように定義します。

以上の式を使って、1次側の電源電圧と2次側の負荷電圧(受電電圧)との関係を伝達関数として解くと次式となります。

この形の伝達関数は、2つの極の周波数の間が通過帯域となる1次バンドパスフィルタの特性を持ちます。

bode_BPF

図3 バンドパスフィルタのボード線図

このボード線図はバンドパスフィルターの一例ですが、極の周波数が10kHzと1,740kHzにあります。
ワイヤレス給電の1次側の電源電圧に対して2次側の負荷電圧(受電電圧)はこの図のような特性となり、安定した受電電圧を得るためには、電源周波数を適切に選ばなければならないことがわかります。
また、このように伝達関数がわかれば適切な電源周波数を決定でき、各パラメータを理論計算に基づいて設計することも可能です。

次に、1次側の電源電圧と電流との関係も伝達関数で示しておきます。

この伝達関数は、電源からみたシステム全体のアドミタンス(インピーダンスの逆数)を表しています。

3.2 等価回路

ここまで説明してきた電磁誘導の基本回路の伝達関数やボード線図は、下図のような一般的に良く知られたトランスのT等価回路と完全に一致します。

つまり、回路が等価であるとは、このように伝達関数(回路方程式の解)が一致するということであり、
ワイヤレス給電で使用する複数のコイルは、トランスと等価であると言えます。

等価回路

図4 トランスのT型等価回路

3.3 RC並列負荷の場合(2次側にコンデンサを追加)

ここまでは負荷が抵抗成分のみの場合を考えてきましたが、次に抵抗と並列にコンデンサを接続した次の図5のような負荷回路の場合を考えます。
2次側コイルと並列にコンデンサを追加した場合と考えてもかまいません。

RC_load

図5 RC並列負荷

負荷をこのようなRC並列回路とした場合の伝達関数は、これまで計算してきた伝達関数に対して、負荷インピーダンスを次式のように置換して求めることができます。

この置換によって、2次側にコンデンサを追加した場合の1次側の電源電圧と2次側の負荷電圧(受電電圧)との関係は次式のような伝達関数として得られます。

ここで、伝達関数の各係数は以下です。
   
   
   
   
   

ちょっと複雑な式に見えるかもしれませんが、コンデンサを追加すると伝達関数の次数が高くなって、伝達関数の極が2つから3つに増えただけです。

各パラメータによって極配置が変化するため様々な特性が得られますが、この伝達関数のボード線図の例を示します。

bode_RC1

図6 並列コンデンサを追加した場合のボード線図

このボード線図では、次式のように定義されるコイル間の結合係数kをパラメータとして変化させたときの、負荷電圧(受電電圧)のゲインと位相を示しています。

この例では、伝達関数の3つの極のうち、2つの極が複素共役対となる場合であり、この複素共役の極の周波数で電圧の振幅がピークとなります。

次に、周波数が50kHzにおける結合係数と負荷電圧(受電電圧)ゲインとの関係に注目してみましょう。

ksweep

図7 結合係数と負荷電圧(受電電圧)ゲインとの関係(並列コンデンサの有無比較)

この図は、伝達関数から求めた結合係数と負荷電圧(受電電圧)ゲインとの関係を、並列コンデンサの有無で比較したものです。

コンデンサがない場合は、結合係数が大きいほど電圧ゲインは大きくなります。

一方、コンデンサがある場合には、結合係数を変化させるとある特定の値で電圧ゲインが極大となります。
つまり、コイル間のギャップ距離を変化させると、近づけても遠ざけても電圧ゲインが低下するような最大電圧距離が存在するということがわかります。

このように、回路方程式から得られる伝達関数やボード線図を使えば、ギャップ距離やコンデンサの有無による負荷電圧(受電電圧)の変化などを理論的に解析することができます。

4.まとめ

ワイヤレス給電システム全体を電気系と磁気系の統合回路網として考え、伝達関数を計算することでシステムの特性をボード線図などで把握できることを示しました。

負荷と並列にコンデンサがあると、受電電圧が極大となるようなコイル間距離が存在する場合があることも説明しましたが、このような現象を磁界共鳴によるものであると説明される場合があります。
しかしながら、実際には電磁誘導(相互誘導)として理論的にその特性を説明できることは示した通りです。

以上のように、電磁誘導現象を利用したワイヤレス給電システムを伝達関数という視点で解析しましたが、この内容がワイヤレス給電に携わるエンジニアの皆様の成果獲得に役立てば幸いです。

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