20dB/decを理解してボード線図を読めるようになろう

ゲイン特性

下の図はボード線図のゲイン特性であり、微分と一次遅れの2つの例を示しています。
ボード線図のゲイン特性とは、入力した正弦波の「周波数」と、その入力した正弦波の振幅に対して出力される正弦波の振幅が何倍になるかという「ゲイン」との関係を表したものです。
通常は、「周波数」を対数目盛で横軸にとり、「ゲイン」を dB という単位で縦軸にとります。

ゲイン特性

ゲイン特性の例

一般的なゲイン特性の解説では、図中に示しているように、傾きが「20dB/dec」や「-20dB/dec」になると説明されます。
しかし、傾きが「20dB/dec」や「-20dB/dec」になる理由やその本質的な意味が理解できないと、ボード線図を読むのは難しいと感じるかもしれません。

そこで、この記事では「20dB/dec」の本質的な意味とゲイン特性の傾きが「20dB/dec」になる理由について解説します。

実際に、私がこの内容を解説している若手技術者研修や制御講座の受講者からは、
「どの教科書でも理解できなかったことが初めて納得できました」などと言われ、やっと理解が深まったとご好評頂いている内容です。

1.20dB/decとは

まずは一般的な教科書などと同じように、20dB/decの意味について解説します。

(1) dB(デジベル)

dBとはゲイン特性の縦軸であるゲインの単位です。そして、このゲインとは入力した正弦波の振幅に対して出力される正弦波の振幅が何倍になるかという振幅比であり、次式によってdBという単位になります。

  \(\displaystyleゲイン dB=20\log_{10}{(振幅比)} \qquad 振幅比=\frac{出力振幅}{入力振幅}\)

これを振幅比を求める式に変形すると

  \(\displaystyle振幅比=10^{\frac{ゲイン dB}{20}}\)

となり
20dBは入力振幅に対して出力振幅が10倍、-20dBは0.1倍という意味になります。

(2) dec(decade)

dec とはdecadeの略で、10年間や10個組のまとまりを表す単語ですが、対数目盛のグラフ軸上では10倍を意味します。
従って、ここで注目しているボード線図でのdecとは、周波数軸上で「周波数が10倍」ということになります。

(3) 周波数が10倍で振幅が10倍

以上のように

  • 20dBとは振幅が10倍
  • -20dBとは振幅が0.1倍
  • decとは周波数が10倍

つまり、「20dB/dec」とは周波数が10倍になれば振幅が10倍になり、「-20dB/dec」とは周波数が10倍になれば振幅が0.1倍になるという特性を表しています。

2.周波数がN倍で振幅がN倍

(1) 6dB/octという表記

音響の分野では「20dB/dec」と同じ意味で「6dB/oct」という表記が使われることが多いようです。

6dBは、厳密には6.02059991・・・dBで「振幅が2倍」を意味しており、oct はoctaveの略で「周波数が2倍」を意味しています。

つまり、「6dB/oct」とは周波数が2倍になれば振幅が2倍になるという特性を表しています。

(2) 20dB/decの意味はシンプル

一般的な教科書では「20dB/dec」は周波数が10倍で振幅10倍、「6dB/oct」は周波数が2倍で振幅2倍と説明されるため「10」や「2」という値に意味があるように考えてしまいがちですが、実際にはその値自体には意味がありません。

「20dB/dec」や「6dB/oct」という表現のために少し難解に感じるかもしれませんが、本当はどちらも周波数がN倍になれば振幅がN倍になるという単純な特性を表しています。また「-20dB/dec」は周波数がN倍になれば振幅が1/N倍ということです。(Nは任意の正の実数)

このように「20dB/dec」や「-20dB/dec」の意味はとてもシンプルなものです。

3.微分と積分の特性

次に、ゲイン特性の傾きがなぜ「20dB/dec」や「-20dB/dec」になるのかを微分と積分から考えてみます。

(1) 正弦波の微分

正弦波 \(A\sin(\omega t)\) を微分すると

\(\displaystyle\frac{d}{dt}A\sin(\omega t)\)
\(\displaystyle=\omega A\cos(\omega t)\)
\(\displaystyle=\omega A\sin\left(\omega t+\frac{\pi}{2}\right)\)

となります。このように、周波数が\(\omega\)の正弦波を微分すると振幅が\(\omega\)倍になります。これが周波数をN倍すると振幅もN倍になる理由であり「20dB/dec」の正体です。

また、この式から微分することで位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)進むこともわかります。

(2) 正弦波の積分

次は正弦波を積分します。

\(\displaystyle \int A\sin(\omega t) dt\)
\(\displaystyle=-\frac{A}{\omega}\cos(\omega t)\)
\(\displaystyle =\frac{A}{\omega}\sin\left(\omega t-\frac{\pi}{2}\right)\)

周波数が\(\omega\)の正弦波を積分すると振幅が\(1/\omega\)倍になり、周波数をN倍すると振幅が1/N倍になることがわかります。

また、この式から積分すると位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)遅れることもわかります。

(3) 40dB/decは2階微分

ゲイン特性の傾きが40dB/decになる場合もあります。
40dBは100倍なので、40dB/decは周波数が10倍で振幅が100倍という意味です。

このことを正弦波の2階微分で考えてみしょう。

\(\displaystyle\frac{d^2}{dt^2}A\sin(\omega t)\)
\(\displaystyle=-\omega^2 A\sin(\omega t)\)

このように、周波数が\(\omega\)の正弦波を2階微分すると振幅が\(\omega^2\)倍になり、周波数をN倍すると振幅がN2倍になることがわかります。これが「40dB/dec」であり2階微分の特性です。

まとめ

多くの教科書で「20dB/dec」は周波数が10倍で振幅が10倍とだけしか説明されませんが、以上のように「10倍」ではなく任意の倍率「N倍」と理解しておいた方が良いです。

また、この記事の最初に示した1次遅れ系のボード線図(ゲイン特性)において、傾きが「-20dB/dec」になっている周波数域では、積分の特性が支配的になっていると考えることができます。

このような基礎を、伝達関数やボード線図を学習する初期に知っておくと、設計現場で伝達関数が活用できるようになり設計開発が加速するはずです。しっかり理解しておきましょう。


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