パワエレ制御は「強電」と「弱電」だから難しいのか?

電力鉄塔と弱電基板

新規事業としてパワエレ(パワーエレクトロニクス)分野へ進出した企業でのオンサイトセミナーの受講者や異業種からパワエレ業界に転職した技術者から、「弱電」はわかるけど「強電」の扱いがよくわからなくてパワエレの制御は難しいという相談をよく受けます。

このような悩みをお持ちの技術者向けに、この記事ではパワエレにおける「強電」と「弱電」をどのように考えれば良いか、そして、パワエレ制御が特別に難しい技術ではないということを説明します。

以前の私は、強電がわからないという質問に対して、強電も弱電も同じ電気であって、オームの法則やキルヒホッフの法則など同じ法則に従うので両者を区別しなければよいと説明していました。しかし、このような説明では強電がわからないという人の悩みは解決できなかったため、今では、「弱電と強電はまったく違うものである」と以前とは逆の説明をしています。

そうすると、
「なるほど!その考え方だとわかりやすいですね!」
と言われるようになりました。

今回は、その内容について解説します。

1.強電と弱電の定義

まず、強電と弱電との違いですが、建職バンクのWebサイトで以下のような表にまとめられています。

強電・弱電の違い

 強電弱電(電子回路)
電圧48V以上48V未満
電気使用方法エネルギー源(動力ライン)信号の伝送媒体(信号ライン)
理論電気工学電子工学
電気設備での役割利用目的は、電気設備では電気エネルギーを変電室の配電盤から建物の各部に運ぶ動脈情報・信号をコントロールしている中心部から建物の必要部分に運ぶ動脈

引用元:建職バンク

強電と弱電について明確に定義が決まっているわけではありませんが、この表に基づいて一言で定義するならば

・「強電」はエネルギー
・「弱電」は信号(情報)

となります。

このように、強電はエネルギーそして弱電は信号と言い換えれば両者はまったく別のものであることが明確に理解でき、「強電」が苦手という人でも受け入れやすいのではないでしょうか。

まずは、この「エネルギー」と「信号」がどういう関係なのかを制御という視点で考えてみましょう。

2.エネルギーと信号で構成される制御系

(1) 一般的なフィードバック制御系

制御工学の教科書では、下のような図を使って一般的なフィードバック制御系の構成と制御の流れを説明しています。

一般的な制御系

図の左側は「信号」を扱う要素であって、指令値と制御量信号(制御結果)とが一致するように制御器が操作量指令を決定します。右側が「エネルギー」を扱う要素であり、操作機器が出力する操作量を制御対象に与えることで制御量(制御結果)が変化します。
そして、この信号とエネルギーの間には、両者を相互に「変換」して接続するための変換要素があり、操作機器とセンサで構成されています。操作機器は外部から注入されたエネルギーを使って操作量指令に応じた操作量を発生します。
図中で英語表記しているActuator(アクチュエータ)とは、通常は操作量として物理的な運動や力を発生するものですが、ここでは運動や力以外の熱や電圧・電流を発生する機器も広義のアクチュエータであると考えることにします。

以上のように、一般的なフィードバック制御系は、「エネルギー」「信号」そして両者を相互に「変換」する要素で構成されていることがわかります。

(2) ヒータを使った水温制御

フィードバック制御の身近な例としてヒータを使った水槽の水温制御がよく用いられますが、この水温制御の例でエネルギーと信号を考えてみましょう。

水温制御系

水温制御のフィードバック制御系は上図のような構成となります。一般的な制御系を水温制御へ置き換えると、制御器は温度制御器、操作機器はヒータ、制御対象は水槽の水、センサは温度センサとなります。
各部の動作は、温度制御器は水温目標と水温値が一致するように発熱量指令を決定し、ヒータは外部から入力される電気エネルギー使って発熱量指令に応じた熱エネルギーを発生させるもので、広義のアクチュエータとして作用します。
この熱エネルギーによって水槽の水温が変化し、温度センサで水温が水温値へ変換されます。

このような制御系によって、水温目標と水温とが一致するように制御するのが水温制御であり、一般的な制御系と同様に「エネルギー」「信号」および両者を接続する「変換」という要素で構成されています。

(3) インバータを用いたコイルの電流制御

パワエレに話を戻して、様々なパワエレ機器に組み込まれているインバータを用いたコイル(インダクタンス)に流れる電流の制御について考えます。

電流制御系

パワエレ機器の電流制御系は上図のような構成です。
ここまで説明した一般的な制御系や水温制御と同様に、図の左側は電流指令と電流値に基づいて電流制御器が演算により電圧指令を決定する「信号」を扱う要素です。この要素がパワエレでは弱電回路と呼ばれ、ソフトウェアによる信号処理または微弱なエネルギーのアナログ回路で構成されます。右側は電圧と電流を「エネルギー」として扱う要素で強電回路と呼ばれます。パワエレ機器では電力を扱うコイル・コンデンサ・変圧器・負荷などで構成されます。

この電流制御系における「変換」の要素は、操作機器(アクチュエータ)に相当するインバータ&変調および電流センサです。「インバータ&変調」とは、電圧指令を変調する回路および、その変調結果に基づいて半導体スイッチをオン/オフさせて所望の電圧を出力するインバータとの組み合わせのことです。
このような「インバータ&変調」を使って電圧指令という「信号」「エネルギー」として使える電圧へ「変換」するのがパワエレ技術の根幹であると言えます。
(ここで言うインバータとは、高速スイッチングする半導体を使った電力変換回路の総称であり、チョッパやコンバータなどと呼ばれるその他の電力変換回路も含みます)

以上のように、パワエレ機器において強電はエネルギーで弱電は信号であると考えれば、パワエレ制御もその他の制御系と同じように扱うことができるため、パワエレ制御が特別に難しいということはありません。
どちらかというと、信号をエネルギーに変換する「インバータ&変調」がパワエレ特有の回路であり、これがパワエレを難しく感じさせてしまう原因ではないでしょうか。

3.インバータとは弱電を強電に変換する増幅器

下図のように、制御系における操作機器とは操作量指令(信号)を、その指令に応じた操作量(エネルギー)に変換するものであり、パワエレでは「インバータ&変調」がこの操作機器(広義のアクチュエータ)に相当することは、ここまで説明してきた通りです。

アクチュエータの機能図

実際のパワエレ機器の制御系で考えると、信号に相当する電圧指令(弱電)をエネルギーとして使える電圧エネルギー(強電)に変換するのが「インバータ&変調」の機能となります。このような電圧指令(信号)を電圧エネルギーに変換する装置を電気の分野では増幅器またはアンプ(amplifire)と呼びます。

増幅器の機能図

このような増幅機能は、下の図のようなオペアンプを用いたボルテージフォロワ回路と同じ働きでありインピーダンス変換とも呼ばれます。
ここではボルテージフォロワの解説は省略しますが、いずれにしても「インバータ&変調」が増幅器(ボルテージフォロワ)であると考えると、この「インバータ&変調」は一般的な制御系における操作機器に相当することがより明確に理解でき、パワエレ制御に対する理解も深められるのではないでしょうか。

ボルテージフォロワ回路

まとめ

パワエレ制御における強電と弱電について、どのように考えればよいのかをまとめると

  •  強電を「エネルギー」弱電を「信号」と定義することで、パワエレ制御もその他の一般的な制御系と同じように扱うことができる。
  •  「インバータ&変調」は電圧指令(弱電)をエネルギーとして使える電圧(強電)に変換する増幅器(ボルテージフォロワ)である。

ということになります。

このような考え方が、パワーエレクトロニクスの制御でどのように活用できるのかについて、技術解説「制御理論に『インバータ』を組込む方法」で詳しく説明していますのでこちらの記事もご参考にしてください。

関連記事

  1. 離散時間積分器

    離散時間積分器のC言語プログラム

  2. MPPTシミュレーション

    MPPT制御のやり方をシミュレーション回路を公開して解説

  3. インバータはどこ?

    制御理論に「インバータ」を組込む方法

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。